築山道議誕生の巻

201○年,ツッキーこと築山美樹は,浦和の新都心にある道庁議会棟に立っている。

今日は道議会議員としての初登庁の日だ。これから3年間,道議としての人生が始まる。

先月までは普通の主婦だった。市民活動で知り合った普通のサラリーマンの夫と,2歳の娘と5歳の息子。4人家族の普通の暮らしを続けていた。夫のお腹が出てきたのが少し気になるぐらいで,幸せを絵に描いたような人生であった。

 そんな普通の主婦が,いきなり道議会議員とは・・。
話は3年前にさかのぼる。200○年の道州制施行が発端である。
ツッキーの住む関東道はほとんどが,都市住民である。
さらには,東京への出勤者も多くコミュニティの脆弱さは日本一であった。
このため道州制の発足にあたり,市民が中心の社会運営を最大のテーマとして,
道づくりに取り組んできた。
その結果,道議会議員を普通の市民が担うシステムを考え出した。
まず,無作為に市民が抽出され,道政への参加を希望する者は,
自分の考えで政策提案を行い。名前は出さずに,その提案された政策で,
選挙を行うのである。
そのため結果が発表されるまで,
隣の主婦が道議会議員になることがわからないのである。

 もちろん,誰でも議員が勤められるように,
職場での身分保障や優遇制度等々さまざまな仕組みが整えられている。

 ツッキーのところに無作為抽出の通知が来たのは半年前,
家事や子供の教育に支障が出るのではと随分悩んだが,
夫や,隣接して住んでいる夫の両親からも協力するからと推奨され,
政策提案を行う決心をした。

 若いころは,市民活動家としてブイブイ鳴らしたツッキーである。
いろいろなテーマが頭をよぎったが,現在一番気になっている
子供たちの教育について考えてみることとした。

提案を行う候補者には,さまざまな情報が提供されることとなっており,
各政党では,政策づくりの無料塾が開催され,
自党のイデオロギーの発信に勤めている。

そうして纏め上げた提案書のテーマは,人間性教育のカオリキュラム化であった。
ツッキーが子供のころには道徳という学科があった。
平成になってからも総合的学習の時間等人間性教育につながる教育があったが,
近年学力偏重主義が台頭し,そうした授業は一切なくなっていた。

ツッキーの提案は,市民による市民教育だった。
実際の地域住民が学校に入り込んで,
社会の仕組みの学びをとおして,市民力・市民度を高める教育を進めようというものである。
詳細は省略するが,さまざまな体験型プログラムを通じて,子
供たちに楽しく学んでもらおうと具体的なプログラムもあり,
この提案がトップ当選した要因ともなった。

この当選後,さまざまな準備を済ませ,今日の初登庁となったのである。

従来の議員と違い,フルタイムの出勤体系である。
議会のない日は,行政機関のチェック業務や,
専任スタッフによる提案の具体化作業を進めている。

この具体化した提案を議会にはかり,
議決をへて行政部局に執行の指示が出される仕組みとなっている。

そういうばさっきから,ツッキーの後ろに小さな影が・・,
2歳の娘さんである。何故職場に娘さんを・・?。
夫の母親も面倒を見てくれると言ってくれたのに・・。

実は,道庁には庁内託児所や庁内幼稚園が完備されているのである。
これで昼休みは一緒に過ごせるのである。もちろん特別料金は無し。
定員に余裕があるので,近隣の民間オフィスに勤める母親の子供も相当数入所し,
大変喜ばれている。

これは,先輩ママさん議員の藤川議員の提案で実現したものである。
道庁のみならず,一定規模以上の企業が,こうした施設を整備するよう,
様々なインセンティブ施策を展開し,こうした施設の開設により安心して子供が作れるため,出生率の低下にストップがかかったようである。

こうした市民参加型の政策形成システムは,さまざまな分野で,
素晴らしい展開を見せている。医療や福祉,環境や教育など,
以前の公共事業中心型の政策とは180度異なるソフト中心の,
それも市民参加型,市民主体型の低コスト運営がなされ,消費税の引き下げも夢ではなくなってきている。

自分たちのことは,まず自分たちでという『市民ガバナンス』
の精神が,この国に広がろうとしている。